退職金・退職年金に関するニュース<4>-2 退職金の社外準備制度の中でも、
厚生年金基金は積立不足の拡大で、会社の悩みの種です
いろはのい:厚生年金基金 運用損、企業の負担に
東京電力福島第1原発事故の損害賠償を巡り、東電の企業年金減額が議論になっています。2010年の日本航空(JAL)の経営破綻時には、企業年金だけで月額25万円という平均的な給付水準の高さが話題となりました。日航は08年まで厚生年金基金で、厚年基金は日本の代表的な企業年金の一つです。しかし、景気悪化局面で抱え込んだ株式などの運用損を埋められず、財政難にあえぐ基金も多いのが実情です。【和田憲二】
◇公的年金に上乗せ
企業年金は、企業が独自に公的年金に上乗せ給付する制度です。公的年金は現役世代の保険料を高齢世代に渡す「仕送り型」なのに対し、企業年金は加入者自身が積み立てたお金を将来受け取る「貯蓄型」です。厚生労働省によると、民間サラリーマンが加入する公的年金、厚生年金の加入者数(10年3月末時点)は3425万人で、その半数近い1700万人は企業年金にも入っています。
企業年金の中で最も加入者が多いのは確定給付企業年金(647万人)。とはいえ、何かと話題になるのは厚年基金(431万人)です。他に▽企業型確定拠出年金(日本版401K、340万人)▽適格退職年金(250万人、今年度で廃止)――もありますが、厚年基金は公的年金と密接なうえ、財政悪化が深刻なために取り上げられることが多いのです。
厚生年金基金は1960年代に創設された企業年金の草分け。独自の資金に加え、本来は国が扱う厚生年金の保険料のうち報酬比例部分の一部を国に代行して運用し、給付しているのが特徴です。扱う資金が大きくなり、市場環境の良い時代は大きな収益を上げることができました。しかし、株価が低迷すれば損失も大きくなります。とりわけ08年秋のリーマン・ショック以降は多くの基金が企業経営の負担になっています。
掛け金を従業員が自己責任で運用する確定拠出年金の場合、将来の給付額は自分の腕次第という面がありますが、厚年基金はあらかじめ給付額が約束されています。バブル崩壊後、企業にはOBに約束通りの給付をすることが大きな足かせとなっているのです。
厚労省によると、608ある厚生年金基金(10年3月末時点)の6割、363基金は積立金が不足し、将来約束通りの給付ができない状態です。さらに242基金は独自の積立金を使い果たしてもなお7700億円足りず、国に代わって運用する厚生年金の積立金にまで手を付けている「ジリ貧」状態です。
◇大手は代行返上
巨額の厚生年金資金の運用損は、母体企業にも響きます。このため、企業が代行運用している資金を国に返上できる制度が02年度に導入されました。返上した基金は、2000年代に新設された確定給付企業年金や確定拠出年金に移行します。トヨタ自動車や日立製作所など大手を中心に代行返上が広がり、日航は08年10月、確定給付企業年金に移りました。総基金数はピークだった96年の1883から3分の1に減少しています。
大手の返上が相次いだのは、まだ余力があるからです。代行返上するには積み立て不足分も含めて国に返す必要があり、大きな運用益を出すか、母体企業が埋め合わせるしかありません。しかし、中小企業には難しいのが現状です。
このため今も厚年基金に残っているのは、大半が財務基盤の弱い中小企業の基金。返上したくとも返せない状態なのです。積立金が底をつき、存続が危ぶまれる242基金の現役加入者と受給者は300万人強。一部では既に掛け金を値上げしたり、将来の給付を減らしています。それでも早ければ10年程度で破綻する可能性を抱えた基金もあり、早晩、具体的な救済策の議論が始まりそうです。
[毎日新聞社 2011年6月29日(水)]